債務整理の中でも特定調停は、あまり知られていない借金の整理方法です。
このため、債務整理についての説明がある場合でも、特定調停の解説が省かれることがあります。
それでも債務整理のひとつとしてきちんと役割があります。
ここではそんな特定調停について、その役割や特徴を紹介します。
また、どのようなケースで活用にできるかについて説明します。
特定調停はどんな債務整理方法?
特定調停とは…債権者と債務者が話し合い、返済ができなくなった借金について見直す債務整理です。
なんだ、任意整理と変わらないじゃないか、と思うかもしれません。
実際に特定調停は任意整理にとてもよく似ています。
特定調停と任意整理はどう違うのかも含めて、特定調停についてもう少し詳しく解説します。
裁判所が協議に参加する
任意整理は、債権者と債務者、もしくは債務者の代理人が交渉します。
ただ特定調停は、債権者と債務者、そしてその間に裁判所が調停委員として入ります。
少し複雑なのが、特定調停でも弁護士を代理人に立てることができることです。
こうなると任意整理も特定調停も変わりません。
特定調停の基本的な考え方としては、以下のようになります。
- 債権者と債務者が話し合いをする場
- その場が荒れたりしないよう、第三者として、裁判所の調停委員が入る
特定調停では借金が減らないことも
特定調停は利息の引き直し計算をすることで、借金額を減らすことができます。
ところが違法な利息での取引でなければ、引き直し計算をしても借金は減りません。
貸金業法が改正された2008年以降の借金は、適正な金利で貸付されています。
そのため、特定調停を行っても借金は減りません。
ただ、返済期間を3〜5年に設定し直すことはできます。
また月々の支払額を減らすというようなことも、特定調停では可能です。
特定調停にまったく意味がないということでもありません。
特定調停後に返済遅延を起こすとすみやかに差し押さえされる
特定調停は裁判所が間に入り、調停調書と呼ばれる書類が作成されます。
調停調書は裁判所が作成するため、裁判での取り決めと同じ効力を発揮します。
この書類どおりの返済ができなくなると、債権者は訴訟を起こさずに給与の差し押さえなどができるようになります。
任意整理の場合は、返済が遅れても再度の話し合いの場を設けてもらえます。
もしくは訴訟を起こされるというようなワンクッションがおかれます。
特定調停の場合は、債権者による即時の差し押さえが可能です。
特定調停手続きの流れ
特定調停は個人でもできる債務整理ですので、個人でする場合の流れを紹介していきますね。
最初の相談は簡易裁判所の窓口で行います。
相談から返済の開始までの流れには下記のようになります。
1 | 簡易裁判所で相談 |
2 | 特定調停申立書の作成と提出 |
3 | 裁判所から債権者への通知 |
4 | 第1回調停 |
5 | 第2回調停 |
6 | 調停調書の作成 |
7 | 返済の開始 |
簡易裁判所で相談をして、特定調停に必要な書類などを確認することから始まります。
特定調停は自分から行動を起こさないと何も動き出しません。
特定調停に必要な申立書は書式が用意されていますので、それに従い作成します。
作成した申立書を裁判所に提出すると、裁判所から債権者へ特定調停の通知があります。
この時点で任意整理の受任通知と同様に、債権者からの取り立てが止まります。
第1回目の調停は債務者だけが呼び出され、返済計画について調停委員と話し合いを行います。
第2回目からは債権者も呼び出されますが、債権者と債務者が顔を合わせることはありません。
調停委員がそれぞれの話を聞きながら調整を行います。
話し合いがまとまれば、裁判所が調停調書を作成し、調停調書の内容に従って、返済を開始します。
話し合いがまとまらない場合も、裁判所が返済条件を提示してくれることもあります。
特定調停はいくら費用がかかる?
特定調停は個人でもできる債務整理なのでお金のかからない制度です。
特定調停を弁護士に依頼すると任意整理とほとんど変わらなくなります。
このため、ほとんどお金をかけずに債務整理することが可能です。
特定調停を行うためにかかる債権者1社あたりの費用は、下記のようになります。
- 印紙代:500円
- 切手代:420円
- 合計:920円
印紙代と切手代をあわせた、たった920円で特定調停を行うことができます。
任意整理にでは1社あたり3〜5万円かかりますので、ほとんどお金がかからないようなものです。
もちろん複数社の特定調停を行う場合はその数だけ費用が必要ですが、それでも額としては大きくなりません。
では、特定調停は積極的に使っていくべきかというと、決してそういうわけではありません。
弁護士は借金問題に詳しく、知識があるからこそ任意整理の交渉を行うことができます。
私たち一般人は法律にも借金問題にも詳しくありませんので、有利な交渉をすることができません。
調停委員がサポートはしてくれますが、大幅な借金削減ということはあまり期待できません。
返済期間の見直しをしてもらい、現実的に返済可能な返済計画を立て直すくらいしかできません。
特定調停ではあまり期待しすぎないようにしましょう。
特定調停のメリット・デメリット
少し分かりにくい特定調停についてここまでご紹介してきました。
そこで次に、特定調停のメリットとデメリットについて紹介します。
特定調停のメリット
- 債務整理費用を減らすことができる
- 借金を減額できる可能性がある
- 債務整理する債権者を選ぶことができる
特定調停は弁護士に依頼しないため、債務整理費用を大幅に減らすことができます。
1件あたり1000円以下ですので、同様の債務整理方法である任意整理とは、比較にならないくらいの低コストです。
また、2008年以前の貸金業法が改正前に借りた借金の場合は、借金を減額できる可能性があります。
任意整理と同様に、債務整理の対象とする債権者を選ぶことができるのも、特定調停の大きなメリットです。
持ち家や車はローンの支払中に債務整理をすると、手放さなくてはいけなくなります。
しかし債務整理の対象外にすることで、それらを手元に残すことができます。
特定調停のデメリット
- 手続きをすべて自分で行う必要がある
- 債権者からの取り立てが止まるまでに時間がかかる
- 過払い金の返還は受けられない
- 滞納時の差し押さえが簡単になる
- 調停が成立するとは限らない
特定調停の最大のデメリットは、自分で行う作業が多すぎて大変だということにあります。
まず平日の昼間に裁判所に通うことになるので、会社員の方にはあまりに難しい手続きです。
また債権者が5社くらいになってくると、書類の作成だけでも大変です。
しかも書類を提出するまでは、取り立てが続きます。
払い過ぎがあった場合、返済残高から差し引くことができます。
しかし特定調停の場合は過払い金の請求まではできません。
さらに、その後の滞納があるとすぐに差し押さえをされてしまう可能性があります。
特定調停をするということは、絶対に決められたように返済をするという強い決意が必要です。
また、調停が必ず成立するわけではありません。
成立してもあまり有利な条件でないこともあります。
特定調停は、思い通りの債務整理にならない可能性が高いということを、頭に入れておきましょう。
特定調停はこんな人におすすめ
ここまで読んで、特定調停はあまりメリットがないかも、そう感じた人も多いかもしれません。
もちろん特定調停でもメリットを感じられる人もいます。
どのような人が特定調停に向いているのかについて紹介しましょう。
- 債務整理にお金をかけられない人
- 安定した収入のある人
- 時間に余裕のある人
- 特定の債務者を債務整理から外したい人
債務整理にお金をかけられない人
特定調停は、債務整理にお金をかけられない人のための債務整理方法です。
弁護士費用を払えそうにないという人や、払いたくないという人にとって、安い費用で債務整理のできる特定調停はおすすめです。
ただ、債務整理に強い弁護士事務所では、費用を分割払いにしてくれることもあります。
安定した収入のある人
特定調停が成立しても、借金が大幅に減るわけではありません。
返済期間を最大3年まで延ばすことができるだけで、返済そのものは続けていく必要があります。
また滞納は即差し押さえに繋がります。
きちんと返すことができる、安定した収入のある人向けの債務整理です。
時間に余裕のある人
特定調停は平日に裁判所を訪れる必要があります。
そのため、忙しくて仕事を休めないというような人には向いていません。
ある程度自由に時間を使える人に適している債務整理方法です。
特定の債務者を債務整理から外したい人
特定調停では、債務整理を行う債権者を選ぶことができます。
マイカーローンや住宅ローンなど、債務整理をしたくない債権がある場合にはおすすめです。
ただし、任意整理でも同様に債務整理を行う債権者を選ぶことができます。
まとめ 自分自身で手続きを行う任意整理
「特定調停とは裁判所で行う任意整理」と呼ばれるほど、任意整理に似ています。
ただし任意整理よりも時間と手間がかかりますが、債務整理の費用を大幅に減らすことができます。
任意整理ではなく、あえて特定調停を選ぶメリットがあるとすれば、この費用の削減だけです。
弁護士費用を用意できそうにないという人のための債務整理です。
特定調停後にきちんと返済できるだけの収入がある場合は、本当に特定調停で良いのかをしっかりと検討した上で利用しましょう。